ルネサンスの世渡り術

ルネサンスの世渡り術

ルネサンスの世渡り術

この本、面白かった。ジュンク堂の壁に何冊も飾られていたときから、気になっていた本だった。

この世渡り術、現代に通じるものも沢山ある。何より作者がとても楽しげに本書を書き上げた気がしてならない。

世界史好き、美術も面白いと思っている、フィレンツェもローマも実際に行ったことがある、今仕事で世渡りする必要が多少はある、というわたしからの視点で見てみると、成る程な~と思うことと、この人やこのエピソードが面白いな~と思うことがあった。
それから、作者が描く漫画チックな描写が好き。マニアックなところも。

第一章 公共事業コンペはニーズが命。

→この話は自分独自の視点で造形面で冒険した者より、より少ないブロンズで表現した者が大規模注文を手にした様子が書かれている。確かに同じ作品ならより少ないブロンズで見事な表現をする者に軍配があがる。

第二章 自己プロデュースを極める

→長生きしていたとみられるティツィアーノ。お金の話と長生きでそれを利用したのとサバをよんで年上に見せかけていたという。この章の冒頭の漫画のティツィアーノのタッチが好きだ。この時代、テレビはないはず、と突っ込みたくなる。

第三章 有利な舞台は自分で作る

→ティントレットの策、見事としかいえない。天井画の素描を募集し、それを見て天井画を任せる人物を選ぼうとしてたのに、素描は出さず、天井画を高速で完成させプレゼントしてしまった。そして、壁画も任されることに。強行突破にアッパレと言いたくなった。

第四章 独りよがりは失敗のもと

第五章 著作権侵害からの炎上商法
 
→この時代、著作権という認識はなく、模倣してもよい世界。ただし、作者は自分の印を書き入れたので、それで模倣かどうか分かっていた。しかし、この印までマネする奴がいた!
裁判になるが・・・。
模倣した方は、あの芸術家に裁判を起こさせるほどの人物として話題や注目を集めることに。

第六章 万能人の自己PR

→多芸多才と言われる、レオナルド・ダ・ビンチの就活の様子を書いた章。そのダ・ビンチでもフィレンツェで上手くいかず、ミラノ国のトップに仕えることにする。ここでは、成る程な、こうしたら就活は上手くいくかもな、と思わせる内容がたくさん載っている。ただし、才能がふんだんにあれば、だが。
わたしはこのレオナルド・ダ・ビンチ、とても賢く就活を良いように進めていくので会ってみたいと思ってしまった。
まずは相手の懐に入るため、相手の欲している能力があるとピンポイントで見せかける。そして、注目してもらうきっかけにする。(レオナルド・ダ・ビンチの場合は、当時軍事的な知識をかなり欲していたミラノ国のトップに対し、軍事的な知識があると見せかけた)
そして、おっ
と思ってもらった。
実際に面接の段になると、珍しい献上商品を持っていき、(レオナルド・ダ・ビンチの場合はバイオリンに似た馬の頭蓋骨をあしらった珍しいリュート)それで惹き付ける。すると、その楽器を演奏してくれという運びになる。
才能豊かなダ・ビンチの演奏は宮廷音楽家たちを驚かせ、まずは音楽家として宮廷に入り込むことになった。
どの時代でも、どの国でも、
いかにインパクトの強い面接にするか結構大事なんだと思えた。

第七章 根回しは相手を考えて

ミケランジェロダビデ像をどこに置くかで会議が開かれていたのが面白い。時はメディチ家が追放された直後で、この会議に作者のミケランジェロが呼ばれていない。

第八章 損失が損失を生むスパイラル

メディチ家メディチ銀行は2年毎にフィレンツェへ報告にいく義務がある。ブルージュ支店長ターニも例外ではない。しかし、この出張中に信頼していた部下、ポルティーニにブルージュ支店長の座を奪われてしまった!さて、どうなる?

第九章 モンスター注文主の対処法

→この冒頭の漫画を見てこの本の購入を決めた。
イザベラ妃は長い文章、細かい注文により分厚い絵の指示書を自ら依頼した画家に提示した。あまりにも細かすぎて画家の創造性を奪うほど。漫画では画家が、そこまで決めとんのやったら自分で描けや!と内心怒っているのが面白い。そしてやる気の無くした画家vs何としても絵を描かせたいイザベラ妃という構図も。

第十章 敵の敵を味方につける

→巨匠と呼ばれるミケランジェロでもラファエロという新人に嫉妬していたようだ。というのも、ラファエロは色彩が見事で知識人たちからチヤホヤされまくっていたからだ。彩色があまり得意ではないミケランジェロは自分の強みの素描に、独自手法で彩色をし、また得意とするセバスティアーノと手を組むことにした。これが大ウケ。このラファエロvsミケランジェロ+セバスティアーノが面白い。

第十一章 捨てる神あれば拾う神あり

→工夫に満ちて独創的な豪華なものを作っても納得しない君主もいる。しかし、その君主に連れられて行った先の王に、一旦ボツになった自分の試作品を見てもらえる機会がおとずれる。一目見て作品を気にいった王は、すぐに正式に作るよう、依頼した。

第十二章 お祭りには便乗すべし

メディチ家の家の印象を良くするために、家を買いそこに飾る絵を工夫し、皆が憧れる三博士に自らを重ね合わせて印象付けていくとは、やはりこの時代も印象が左右する面があったのね、と思ってしまう。